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京都地方裁判所 平成3年(ワ)1031号 判決 1992年6月19日

原告 丸谷やゑ

右訴訟代理人弁護士 菅充行

被告 丸谷ふく

右訴訟代理人弁護士 安藤純次

主文

一  被告と丸谷與七郎との間で別紙物件目録記載(一)の土地につき、平成二年九月一四日締結した贈与契約(登記簿上は譲渡担保契約)を取消す。

二  被告は、右土地につき、京都地方法務局伏見出張所平成二年九月一八日受付第二一二八九号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

三  原告の本件主位的請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

(主位的的請求)

1 被告と丸谷與七郎との間で平成二年九月一四日成立した別紙物件目録記載の土地(以下、新町の土地という)の譲渡担保契約を取消す。

2 被告は、右土地につき、京都地方法務局伏見出張所平成二年九月一八日受付第二一二八九号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(予備的請求)

主文同旨の判決。

二  被告(答弁の趣旨)

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

一  主位的請求について

1  原告(請求原因)

(一) 原告は、丸谷與七郎の妻である。

(二) 昭和六二年九月一〇日、原告は、丸谷與七郎の原告に対する暴力を原因として家を出た。同人と原告とは、以後別居状態になり、婚姻関係は完全に破綻している。

(三) 原告は、丸谷與七郎に対し、昭和六三年、離婚、財産分与、及び、慰藉料の支払請求の訴えを提起した(京都地方裁判所昭和六三年(タ)第一二五号)。

(四) 原告は、丸谷與七郎に対し、少なくとも、新町の土地の二分の一の持分の財産分与の請求債権、及び、相当額の慰藉料請求債権を有する。

(五) 丸谷與七郎は、被告に対し、平成二年九月一四日、新町の土地を譲渡担保を原因として譲渡し、これに基づき京都地方法務局伏見出張所平成二年九月一八日受付第二一二八九号をもって、同土地につき所有権移転登記がされた。

(六) 右譲渡担保契約当時、丸谷與七郎には、新町の土地のほかに原告の前記財産分与及び慰藉料請求権を満足させることのできる財産はなかった。

(七) 丸谷與七郎は、右譲渡担保契約の際、右(一)なしい(四)の事実を知っていた。

(八) よって、原告は、債権者取消権に基づき、前記譲渡担保契約の取消及び前記所有権移転登記の抹消登記手続を求める。

2  被告(認否)

(一) 請求原因(一)の事実を認める。

(二) 同(二)の事実のうち、丸谷與七郎の暴力の事実を否認し、その余を認める。

(三) 同(三)の事実を認める。

(四) 同(四)の事実を否認する。

(五) 同(五)の事実のうち、新町の土地の譲渡が譲渡担保を原因とするものである事実を否認する。その余の事実を認める。

(五) 同(六)、(七)の事実を否認する。

(六) 同(八)を争う。

二  予備的請求関係

1  原告(請求原因)

(一) 主位的請求原因(一)に同じ。

(二) 同(二)に同じ。

(三) 同(三)に同じ。

(四) 同(四)に同じ。

(五) 丸谷與七郎は、被告に対し、平成二年九月一四日、丸谷與七郎所有の本土地を贈与し、これに基づき京都地方法務局伏見出張所平成二年九月一八日受付第二一二八九号をもって、同土地につき所有権移転登記をした。

(六) 右贈与契約当時、丸谷與七郎には、新町の土地のほかに原告の前示財産分与請求権及び慰藉料請求権を満足させることができる財産はない。

(七) 丸谷與七郎は、右贈与契約の際、右(一)ないし(五)の事実を知っていた。

(八) よって、原告は、債権者取消権に基づき、前示贈与契約の取消及び前示所有権移転登記の抹消登記手続を求める。

2  被告(認否)

(一) 請求原因(一)の事実を認める。

(二) 同(二)の事実のうち、丸谷與七郎の暴力の事実を否認し、その余を認める。

(三) 同(三)の事実を認める。

(四) 同(四)の事実を否認する。

(五) 同(五)の事実を認める。

(六) 同(六)、(七)の事実を否認する。

(七) 同(七)を争う。

第三証拠<省略>

理由

第一主位的請求の検討

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因(五)の事実について検討する。

<書証番号略>、弁論の全趣旨によれば、丸谷與七郎は、被告に対し、新町の土地を贈与したが、税金対策上、登記原因を贈与とせず、譲渡担保としたものであることが認められる。他に、請求原因(四)の事実を認めるに足りる証拠がない。

三  よって、その余の判断をするまでもなく、主位的請求は理由がない。

第二予備的請求の検討

一  前提事実(争いがない事実等)

1  請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同(二)の事実は、<書証番号略>、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

同(三)の事実、即ち、離婚等の訴えを原告が提起したことは、当事者間に争いがない。

二  詐害行為取消と被保全権利の存在時期

取消権を行使する債権者の被保全債権は、原則として、取り消されるべき詐害行為の前に発生していることが必要であって、詐害行為と主張される不動産物権の譲渡行為が債権者の債権成立前にされた場合には、取消権を行使できない。

そこで、原告主張の被保全債権である慰藉料、財産分与債権が、本件詐害行為と主張される丸谷與七郎から被告への新町の土地の譲渡行為前に発生していたものに準じて、取消権行使が許されるかが問題となる。以下、右両債権につきこの点を順次検討する。

1  慰藉料債権の検討

離婚に伴う慰藉料は、離婚が成立を前提として、有責の相手方に対し、離婚に至たらさせた不法行為による精神的損害の賠償を求めるものである。

そこで、離婚が成立しない限り、この損害賠償債権が発生しないのではないかとの疑問が生ずる。そして、裁判上の離婚はその旨の形成判決が確定した時点で効力が生ずる。だから、未だ別件離婚判決の言渡や確定がない現時点で、右不動産譲渡行為を詐害行為とすることはできないといえなくもない。

しかし、離婚に至る相手方の暴力など個々の有責行為は、それ自体が、不法行為であることには変わりがなく、離婚に伴う慰藉料は、これを一括して請求するものに外ならない。だから、その実質は個々の有責行為の時点で不法行為による損害賠償債権が発生しているものというべきである。また、本件の場合には、本訴提起前はもとより、それ以前の別訴の離婚請求事件の提起前に、原告と丸谷與七郎はすでに別居を相当期間継続し、既に事実上の離婚状態にあったものと認められる。したがって、後記認定のとおり、原告は、その時点以後の本件訴訟における弁論兼和解の途中で行った本件不動産の譲渡行為を、右慰藉料を被保全権利とする詐害行為として、これに対し取消権を行使できると考える。

2  財産分与債権の検討

(一) 財産分与債権は離婚によって生じる一個の私権たる性質を有する。

そして、それが家庭裁判所に調停、審判事件として係属し、地方裁判所の離婚事件に付随して財産分与が申し立てられていない場合には、当事者間の協議、審判などによって、その具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定であるから、かかる財産分与請求権を保全するために詐害行為取消権を行使することができない(最判昭五五・七・一一民集三四巻四号六二八頁参照)。

(二) しかしながら、離婚請求事件が地方裁判所に提起され、これに付随して財産分与請求の申立が行われている場合において、その訴訟事件が実質的に審理を重ね結審が間近に迫り、離婚、財産分与判決が出される蓋然性が極めて高く、当事者もこれを察知しているときには、詐害行為取消権が成立する。即ち、このような事実関係において、右本案事件の離婚、財産分与の判決が近く言い渡されることが、かなりの蓋然性をもって予測される場合には、その限度において、これを被保全権利とする詐害行為取消権が成立するものと解するべきである(最判昭四六・九・二一民集二五巻六号八二三頁参照)。

なぜなら、詐害行為取消権の被保全権利は、必ずしも、それが確実に現存していないとしても、成就の蓋然性の高い条件付債権、期限付債権などと同様に、債務者が近い将来発生する蓋然性の高い場合であれば足りるからである。そして、この場合、債務者がこれを察知してその債権者を害する意図のもとに行った詐害行為に対しても、取消権を行使できると考える。

(三) 本件では、後示認定のとおり、右人事訴訟事件の弁論兼和解の途中、同人の被告である夫丸谷與七郎が、これに同道していたその実妹である本訴被告に密かに訴訟外でその財産分与請求の対象となっていた主要な財産である新町の土地を贈与したというものである。

三  慰藉料請求権、財産分与請求権の存否の検討

1  事実の認定

<書証番号略>、弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 丸谷與七郎は昭和一四年から一八年まで陸軍に召集され、以後中国で暮らし昭和二〇年内地に引き揚げ、昭和二一年三月頃から次兄の援助で大津市において、弟と共同でアメリカ兵を相手にカメラ店を開業した。

(二) 原告と丸谷與七郎は、同年一一月一三日、婚姻の届出を了した。原告と丸谷與七郎の間には、長男信行(昭和二七年一二月一〇日生)と次男英行(昭和三〇年一〇月六日生)の二子がいる。

(三) 丸谷與七郎は、昭和三〇年ころ、同人の現住所地において店舗を賃借してカメラ店を開業し、次いで、昭和三三年七月には、右店舗のあった新町の土地及び同地上の建物を購入した。さらに、昭和四九年、別紙目録記載(四)の建物(以下、向島の建物という)において、右カメラ店の支店を開業した(以下、支店ともいう)。昭和五四年一一月、新町の土地上に別紙目録(二)記載の建物(以下、新町の建物という)を建築した。一階は、カメラのマルタニ本店(以下本店という)、二階は貸店舗(但し、昭和六二年立退済み)、三、四階を原告、丸谷與七郎ら家族の住居として使用した。長男信行が結婚した後は、信行夫婦及び英行が新町の建物に住み、原告と、丸谷與七郎は、向島の建物に居住した。信行、英行は、本店の営業を担当し、與七郎は、支店の営業を担当した。原告は、本店の営業を手伝っていた。昭和五四年一二月二五日、丸谷與七郎らは右カメラ店を法人成りさせて、有限会社カメラのマルタニ(以下、会社という)を設立した。

(四) 丸谷與七郎は、真面目かつ仕事熱心で、仕事一途の人間であった。が、夫婦や子供に対する細やかな情愛に欠けるところがあり、口を開けば小言をいうのを常としていた。また、家族に旧陸軍式の絶対服従を要求した。原告も丸谷與七郎との婚姻以来、献身的にカメラ店の営業に協力した。丸谷與七郎は、何事につけても、自分の思いどおりにいかなければ気のすまない性格である。やがて、原告が仕事に関する助言をするようになるとこれを嫌い、自分の考えを原告に対し押しつけた。しかも、丸谷與七郎は、高齢になるにつれて、その独善的かつ独断的で固陋な傾向が強くなった。意見の食違いなど気にいらないことがあると、原告に対して、しばしば暴力を振るった。

(五) 丸谷與七郎は、長男信行、次男英行と折り合いが悪く、掃除、商品の管理等の店の営業方法について、しばしば小言を繰り返した。丸谷與七郎は信行や英行との間で仕入に関し意見が鋭く対立、衝突して、次第に、丸谷與七郎と信行、英行との関係がいよいよ険悪になった。原告は、夫の與七郎と信行、英行の確執のなかで、その板挾みになって苦しんだ。ところが、丸谷與七郎は、原告が信行、英行の味方ばかりすると思い込み、原告の言動がことごとく嫌になり、原告に対する不信感が募らせて、憎しみを増幅させていった。丸谷與七郎は、夫婦の住居を新町の建物に移すことを提案したが、原告は、新町に帰れば子供達と喧嘩になると思いこれに反対した。昭和五七年一一月、原告の兄、與七郎の兄及び妹を交えてこのことにつき話し合いをした。その場で、丸谷與七郎は、原告に対して、原告が信行、英行と一緒になって同人をないがしろにしたと詰〔なじ〕り、強い調子で責めた。また、子供と一緒になって会社の乗っ取りにかかっているともいうのである。さらに、同年一二月七日にも同様の会合をした。原告が、会社の経営方針について意見を述べたところ、丸谷與七郎の兄は、原告に対し、「家を出て行け」と言い、何回も大声でそれを繰り返した。原告が丸谷與七郎の意向を質したところ丸谷與七郎もこれに同調した。それを確かめた原告は、もはやこれまでと思い、やむなく家を出て、丸谷與七郎と別居した。が、約二週間後、原告は、実兄の説得により家に戻り、同月三〇日、原告と丸谷與七郎は住居を新町の建物に移転した。

(六) 丸谷與七郎は、昭和五八年一月六日、就寝中の原告を突然、「気に入らない」といって、顔面、頭部を手拳で強く殴打し続けた。殴るに任せていた原告は、そのまま気を失い、その後二日間起きられなかった。

(七) 同年六月、長男信行夫婦は、丸谷與七郎とうまく行かず、アパートへ引っ越した。

(八) 昭和六一年、丸谷與七郎は独断で大量の仕入れをしたため、大赤字を出した。

(九) 昭和六二年四月、丸谷與七郎と信行、英行は、丸谷與七郎が本店の経営を信行、英行に任せると約束したかどうかについて激しい口論となった。その際、原告が丸谷與七郎に対し、昭和六一年度の店の赤字の原因と同人の不手際に言及したところ、丸谷與七郎は興奮して原告を殴打した。

(一〇) その後も、丸谷與七郎と信行、英行は、会社の経営方針や、経営を信行、英行に任せるかどうかという事柄について度々激しい口論を繰り返した。昭和六二年九月六日、信行、英行は、丸谷與七郎に対し、改めて、本店の経営を任せてほしいと要求した。ところが、丸谷與七郎は、即座にこれを拒否したばかりか、信行、英行に対し、家を出て行くよう要求した。信行、英行は七日限り本店の仕事をやめた。原告は、会社の後継者となるべき信行、英行が仕事をやめたので店で働き続ける意欲も萎え、丸谷與七郎の暴力に耐えられなくなった。そして、もはや、丸谷與七郎と同居する理由はないと考えるようになり、同月一〇日、再び家を出た。以後、原告と丸谷與七郎は別居を続けている。

(一一) 別居後、原告と丸谷與七郎は、夫婦関係を修復するため話し合いをした。しかし、丸谷與七郎の姿勢が強硬で解決せず、原告の離婚の意思はいよいよ確定的になった。

(一二) 原告は、京都家庭裁判所に離婚の調停(昭和六三年(家イ)第六四四号)を申立てたが、昭和六三年八月一九日不成立になり、原告は当裁判所に別訴(昭和六三年(タ)第一二五号)を提起した。

2  離婚事由の存否

前認定1の各事実、弁論の全趣旨に照らすと、原告、丸谷與七郎間の婚姻生活は、丸谷與七郎が長男、次男との確執から、原告と不仲となり、同人の原告に対する度重なる暴力や、高齢化に伴う性格の偏りの増幅などにより、原告は愛想をつかして、別居にいたったものである。このようにして、原告と丸谷與七郎の婚姻は、完全に破綻し、本訴提起時には、すでに事実上の離婚状態にあるもので、民法七七〇条一項五号所定の婚姻を継続し難い事由がある。

3  慰藉料の成否とその額

前認定1の各事実、弁論の全趣旨を総合すると、原告は、丸谷與七郎の前示有責的行為によって、やむなく離婚するに至ったもので、これによる精神的苦痛は少なくない。したがって、前認定一の原告の暴行などその有責性の内容、程度、同居期間、双方の収入、資産、年齢などを考慮して、慰藉料額は、四〇〇万円が相当である。

4  財産分与の成否と内容

(一) 事実の認定

前掲各証拠、<書証番号略>、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  丸谷與七郎は、昭和三三年七月二三日、新町の土地を代金約二〇〇万円で買入れ、丸谷與七郎名義で所有権取得登記をしている。この代金は、同所におけるカメラ店の営業によって形成した自己資金及び借入金により頭金を支払い、残代金及び借入金は店の売上から分割で支払われた。右土地の時価は三億五、二三六万円である。

(2)  昭和五四年一一月、新町の建物が建てられた。登記名義は、原告、丸谷與七郎、信行、英行各四分の一の共有である。右四名は、それぞれ、自己資金及び借入金によって、建設費用八、〇〇〇万円を支払った。

その後、右借入金は、同人ら四名が、それぞれ会社から支給される給料から分割弁済した。右建物の原告と丸谷與七郎の持分の時価は各二、六二九万円である。

(3)  丸谷與七郎、信行は、昭和四八年三月、別紙目録記載(三)の土地(以下、向島の土地という)を購入した。登記名義は與七郎一〇分の四、信行一〇分の六の共有である。與七郎が信行に贈与した株式の売却金により代金が支払われた。右土地の與七郎持分の時価は、一、六三五万円である。

(4)  丸谷與七郎は、昭和四九年三月、向島の建物を建て、同人名義で登記を了した。建築費は、自己資金及び同人の姉からの借入金をもって支払った。

その後、借入金は店の売上から支払を済ました。同建物の時価は、一八八万円である。

(5)  昭和五四年一二月、丸谷與七郎、原告、信行、英行らは、有限会社カメラのマルタニ(資本金一、〇〇〇万円)を設立した。原告が一〇万円、信行、英行がそれぞれ二〇万円を現金で出資した。與七郎は、店の在庫品(価格合計九五〇万円)を現物出資した。

(6)  右丸谷與七郎所有の不動産は、現在すべて被告に贈与し、譲渡担保を原因とする所有権移転登記がされている。しかし、與七郎は、別訴において右贈与による同人の所有権の消滅を主張していない。また、それだけでなく、以上認定の各事実の経緯、弁論の全趣旨に照らし、後示のとおり、そもそもこの贈与は、無効ないし取り消されるべきものであると認められ、実質上その所有権は與七郎にあるといえる。

(二) 財産分与の方法(分与の割合)

右(一)各認定の事実に前認定1の各事実、弁論の全趣旨を考え併せると、丸谷與七郎の財産形成に関し、妻である原告は、家事労働のほか、カメラ店の業務に従事し、その事業の維持発展に相当高度な協力をしていると認められる。その寄与度は一切の事情を考慮して、原則として四割とするのが相当である。

(三) 原告と丸谷與七郎の財産額

原告と丸谷與七郎所有の財産額は、次のとおりである。

(1)  原告

イ 新町の建物持分四分の一 二、六二九万円

ロ 会社出資金相当の持分 一〇万円

(2)  丸谷與七郎

イ 新町の土地 三億五、二三六万円

ロ 新町の建物持分四分の一 二、六二九万円

ハ 向島の土地持分一〇分の四 一、六三五万円

ニ 向島の建物 一八八万円

ホ 会社現物出資相当の会社の持分 九五〇万円

(四) 分与の可否とその基準の決定

以上認定の各事実、弁論の全趣旨により認められる夫婦である丸谷與七郎と原告の双方がその協力によって得た前示財産の額、その他原告の資力、その性格や実子である信行、英行などとの紛争の状況など一切の事情を考慮して、次のとおりの基準で分与するのが相当である。

(1)  新町の建物 その持分各四分の一は、そのまま原告、丸谷與七郎の所有とし、分与による清算をしない。

(2)  新町の土地、向島の土地 丸谷與七郎所有の持分の各五分の二に相当する持分割合を原告の持分として、次の持分割合による共有とする。

イ 新町の土地の持分割合 原告が五分の二、丸谷與七郎が五分の三

ロ 向島の土地の持分割合 原告が二五分の四、丸谷與七郎が二五分の六

*なお、新町の土地は、現在、丸谷與七郎の実妹丸谷ふく名義に移転登記されているが、これは、丸谷與七郎及び丸谷ふく出席の本訴の弁論兼和解の途中で行われたものであり、弁論の全趣旨に照らし、本訴で、詐害行為として取り消される蓋然性も高い。したがって、これを前示のとおり共有とする方法による分与を行う。

(3)  向島の建物(一八八万円)、現物出資相当の会社の持分(九五〇万円)この合計金額から原告の右会社の持分(一〇万円)を差し引いた金額一、一二八万円の四割相当の金四五一万二、〇〇〇円を分与する。

5  まとめ

以上のとおりであるから、本件と同時進行している原告の丸谷與七郎に対する別訴の離婚等請求事件(昭和六三年(タ)第一二五号)において、離婚、及び、慰藉料として、金四〇〇万円、財産分与として、<1>新町の土地持分五分の二、<2>向島の土地の持分二五分の四の各譲渡とその旨の所有権移転登記、<3>金四五一万二、〇〇〇円の支払の請求が認容される蓋然性が極めて高い。

したがって、原告主張の予備請求原因(二)、並びに、(三)の慰藉料及び財産分与請求権は、右の限度でその存在の高度の蓋然性を認めることができる。

とすれば、原告は、右の範囲の慰藉料、財産分与請求権を被保全権利として受益者である被告に対して、詐害行為取消権に基づき、新町の土地の譲渡行為の取消を求めることができるというべきである。

四  無資力の検討

前認定の各事実、とくに、三3(三)の丸谷與七郎の財産額と弁論の全趣旨に照らし、高齢の與七郎には、新町の土地のほか見るべき資産がなく、このほか前示慰藉料、財産分与債権を満足させるに足る財産がないことが明らかである。

したがって、原告主張の予備的請求原因(六)の事実を認めることができる。

五  債務者悪意の検討

(一)  前認定の各事実、弁論の全趣旨に照らすと、次の事実が認められる。

原告と丸谷與七郎は、前認定のとおり、昭和六二年九月一〇日以降別居し、昭和六三年に原告が同人に対し、離婚、慰藉料、財産分与請求の訴えを提起した(争いのない事実)。同訴訟において、平成二年一月一〇日までに多数回の口頭弁論ないし弁論兼和解が行われ、原告及び被告丸谷與七郎本人尋問などの証拠調べがなされ、婚姻中の財産形成、現在與七郎が所有する財産の鑑定評価がなされた。その時期に行われていた弁論兼和解の途中で、丸谷與七郎は、これに同席していた実妹の被告に密かに訴訟外でその主要な財産である新町の土地を贈与したものである。

(二)  右認定の事実、並びに、前認定の各事実と弁論の全趣旨を総合すると、丸谷與七郎は、原告との婚姻関係が破綻に瀕し、新町の土地の譲渡前に既に事実上離婚状態にあること、原告が同人に対してほぼ前認定額程度の慰藉料、財産分与請求権があること、新町の土地以外にこれらを満足させるに足る資産がないことを知って、新町の土地を被告に贈与したものと推認できる。

被告は、與七郎が被告の世話になり終生面倒をみてもらうことに対する些細なお礼の気持ちとして、新町の土地を贈与したまでで前示詐害の事実を知らなかった旨を述べるが、これは前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠がない。

したがって、原告主張の予備的請求原因(七)の事実は右の限度でこれを認めることができる。

六  詐害行為取消権の範囲の検討

詐害行為取消権者の債権額が目的物の価格を下回る場合には、一部取消をすべきであり、本件では前認定のとおり、本件慰藉料、財産分与債権額は新町の土地の価格をより低額であることが明らかである。この場合には、特段の事情がない限り、債権額の限度で一部取消をすべきものである。しかし、一部取消に対応した一部の現物返還ができないときは、処分の全部取消、全部の現物返還を命ずべきである。即ち、不可分の一筆の土地や一棟の家屋を譲渡することが詐害行為となる場合には、債権額が家屋の価格よりも低いときでも、なお譲渡行為全部を取り消し、目的物全部の返還を命ずるのが相当である(最判昭三〇・一〇・一一民集九巻一一号一六二六頁参照)。

したがって、本件贈与の全部取消と新町の土地の全部の返還請求をする原告の請求を認容すべきである。

第三結論

以上のとおりであるから、原告の主位的請求は失当としてこれを棄却し、予備的請求は理由があるからこれを認容する。よって、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川義春)

別紙 物件目録

(一) 京都市伏見区新町四丁目四六五番

宅地 二三四・二八平方メートル

(二) 同所同番地上

家屋番号 四六五番

鉄筋コンクリート・鉄骨造陸屋根五階建 店舗・居宅

床面積

一階 一七九・六二平方メートル

二階 一一五・三八平方メートル

三階 一二〇・六〇平方メートル

四階 一二〇・六〇平方メートル

五階 三一・六八平方メートル

(但し、被告の持分 四分の一)

(三) 京都市伏見区向島善阿弥町四八番

雑種地 五三平方メートル

(但し、被告の持分 一〇分の四)

(四) 同所同番地上

家屋番号 四八番

鉄筋造亜鉛メッキ銅板葺

床面積

一階 四八・五五平方メートル

二階 五四・六四平方メートル

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